Corey Byrne
Senior Associate | Legal
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Insight
02 August 2024
Cayman Islands, Tokyo
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2022年8月31日、ケイマン諸島のリストラクチャリング・オフィサー制度が施行されました[1]。この制度は、ケイマン諸島における支払不能状態会社の再建に関して、更に柔軟な再建方法を導入するものです。これは、リストラクチャリング請願の提出日から自動支払猶予期間が開始するというという特色もあります。
リストラクチャリング・オフィサー制度導入前において[2]、法定支払猶予の効果を有する再建方法は、ケイマン諸島における裁判所監督形式である再建手続において「ライトタッチ」(訳注:一時的な関与のみの想定)ベースの暫定清算人が選任される場合に限定されていました[3]。リストラクチャリング・オフィサー制度は、その手続面を見直し、さらにその利用に際して障害となるものを取り除いています。これには、(a)暫定清算人選任前に会社清算請願を提出しなければならない点(これは社会的信用を毀損する結果もたらします。)[4]、および、(b)暫定清算人が選任されるまでの間は支払猶予が認められない点[5]が含まれます。
2022年8月31日より前、ケイマン裁判所は、会社法(Companies Act)第104条(3)に基づく会社清算請願が提出された場合、以下の両要件を満たすときに、ライトタッチの暫定清算人を選任することができました。
• 債務弁済不能であり、またはその可能性があること
• 債権者に対して譲歩案または調整案を提案する意図があること
現在、これらは、リストラクチャリング・オフィサーを選任する際の要件として第91B条に規定されています。
一方で、制度変更の一環として上記各要件が第104条(3)から削除され、より広範な表現の文言に変更されました。
「暫定清算人選任の申立ては会社が第1項に基づいて行うことができ、裁判所は当該申立てに基づいて適当と考える場合には暫定清算人を選任することができる。」
リストラクチャリング・オフィサー制度の導入後、第104条(3)の下で裁判所がどのような事実関係において暫定清算人を選任することが適当と判断するかは明らかではありませんでした。特に、会社法第104条(2)においても、別途、会社とその資産を不正使用から保護する目的に基づく暫定清算人の選任の途を拓いているところです。
近時のRe Kingkey Financial International (Holdings) Limited[6](「キングキー事件」)におけるケイマン諸島大法廷の決定は、この疑問に対する指針を示し、また、問題となっている支払不能状態の会社の状況次第では、特定の事実関係の下において裁判所監督の下での再建を実施するために、ライトタッチの暫定清算手続を利用することが適切であることを示した最初の事例です。
キングキー事件は、近時の経済状況により財政的困難状況にあった香港証券取引所上場会社(「本件会社」)舞台となりました。本件会社は株式申込を通じて資金提供する出資者を確保しました。取締役会は株式発行を承認しましたが、唯一、会社の執行役員かつ株主でもある陳氏が、彼自身による資金提供も含めて他の手段も考えられるとして、これを反対していました。株式発行完了前、陳氏は株式発行を阻止するために香港裁判所に対して差止命令を求め、結果的に株式申込契約の効力は失われました。
同時期に、陳氏が市場操作やインサイダー取引に関与していたとする複数の匿名による申立てが取締役会に届きました。取締役会がこれらの申立てに対応する前に、陳氏は、自分を除く全ての取締役を解任するための臨時株主総会(EGM)を招集するよう取締役会に請求しました。これに対抗して陳氏を解任する請求も提出されました。
会社の取締役会は、独立非執行取締役のみで構成される特別委員会を設置しました。当該委員会は、会社が支払不能状態であり、また、中立かつ独立した第三者の手に会社を委ねるのが相当として暫定清算人を選任すべきと結論付けました。当該委員会の見解は、リストラクチャリング・オフィサーの請願では現在の経営陣による会社支配権が維持される点で適切ではないというものでした。
アシフ裁判官は、まず、会社法第91B条が、会社の取締役会が少なくとも一部の権限と機能を維持し、会社を引き続き支配することを前提として想定していることがその文言から暗に認められると判断しました[7]。これは、「債務者保持」の性格を有するリストラクチャリング・オフィサー制度の趣旨と一致するものです。すなわち、リストラクチャリング・オフィサーが会社とその債権者の間で裁判所の承認を受けられるような譲歩案または調整案を作り上げつつ、その間、取締役が日々の会社運営を続けられるように設計されているのです。
アシフ裁判官は、現在の第104条(3)の広範な文言よりも、従前の文言の方が限定的であったというのは相当であるものの、当該事件の事実関係の下では、本件会社が債務弁済不能であり、譲歩案または調整案を提示する意図があったことが証拠上認められると判断しました[8]。アシフ裁判官は、本件会社が2022年8月より前の第104条(3)に規定する要件を満たす以上、新第104条(3)の文言が暫定清算人を裁判所が選任することができる状況を拡大するものであるかどうかという検討には踏み込みませんでした。
アシフ裁判官は、暫定清算人を選任すべきと判断し、以下の各事情が当該結論を形成する上で関連することを示しました。
· 本件会社は、現実問題として、危機的な財政状況にあって、差し迫った破産のリスクに直面しており、成功的な企業再建がなければ存続できない状態にあったこと。このことから、アシフ裁判官は、本件会社の破産手続を認めるよりも、成功的な企業再建こそが債権者および社員により良い結果をもたらすものであると推認しました[9]。
· 本件会社は詳細な再建計画を提示する必要はなく、詳細な計画が提示されていなくとも、本件会社が暫定清算人の意見を取り入れた計画を提示する意図があったことは明らかであったこと[10]。
· 暫定清算人の選任申請につき本件会社自身に一次的な決定権があることも重視すべきであること[11]。
· 本件会社の財政状況の対応手段に関する経営陣の意見断絶が解消されておらず、また、陳氏と他の取締役の間で、陳氏の行動に関する未解決の申立て等に関する紛争が発生していたこと[12]。そのため、本件会社の現状管理および安定性を実現するためには、暫定清算人という形式による独立した管理が得策であること。
· 債権者や陳氏が審尋に出頭せず、通知がなされたにもかかわらず申立てに異議申し立てがなかったことから、暫定清算人の選任につき積極的な反対意見はないと推認できること[13]。
キングキー事件は、会社法第104条(3)項に基づくライトタッチの暫定清算人の選任が、ケイマン裁判所が行使しうる重要な救済手段であることを確認しました。裁判所は、リストラクチャリング・オフィサーの選任よりも暫定清算人の選任の方が好ましい状況の一つを示した点で重要です。すなわち、経営陣間の断続的な争いにより会社が機能せず、既存の経営陣が支配権を維持するリストラクチャリング・オフィサー制度の債務者保持たる性質が逆作用する状況です。
しかし、2022年8月の改正による第104条(3)項の広範な文言の下、その他の状況ではどのような場合にリストラクチャリング・オフィサーに代わって暫定清算人を選任することが適切であるとケイマン裁判所が考えるかについては、今後の展開が待たれます。
[1] 会社法(2023年改正)第91A条から第91J条。(Ogier Insight)「ケイマン諸島における新たなリストラクチャリング制度の導入」(2022年8月15日)参照。
[2] これまでにケイマン裁判所で判断されたリストラクチャリング請願の数は限定的であり、奏功率も高くありません。(Ogier Insight)「ケイマン・リストラクチャリングアップデート:2023年10月4日付大法院決定」(2023年10月11日)参照。
[3] (Ogier Insight)「近時のトレンド:ケイマン諸島における暫定清算」(2021年6月3日)参照。
[4] 会社法第104条(1)項。
[5] 会社法第97条(1)項。
[6] (2024年4月19日付アシフ裁判官による裁定(未報告))。
[7] 例えば、第91B条(5)項は以下のように定めています。「裁判所が第(3)項(a)に基づいて命令を下す場合、当該命令には次の内容を規定しならない……(b)取締役会の権限および機能を制限し、または、修正するリストラクチャリング・オフィサーの権限および機能の行使方法および範囲、(c)取締役会による権限および機能の行使に関し裁判所が適当と考える取締役の権限および機能の制限条件」(キングキー事件[34]-[35])。
[8] キングキー事件[40]。
[9] キングキー事件[41]-[42]。
[10] キングキー事件[43]-[45]:Re CW Group Holdings(2018年8月3日付パーカー裁判官による裁定(未掲載))[70]の引用。
[11] キングキー事件[46]-[48]:Re CW Group Holdings[31]、[72]の引用。
[12] キングキー事件[49]。
[13] キングキー事件[51]。
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