BVI商業裁判所 – 未払債権者にとって豊かな地域?

Rich Region Holdings Ltd v ICBC (Macau) Ltd [1]において、BVI商業裁判所は、債務会社の清算人を任命し、貸付契約に基づく延滞金に関して銀行が提出した強制履行の請求棄却を認めませんでした。香港および中国本土において財政不振となっている不動産プロジェクトが急増する最中に示されたこの決定は、BVIが債権者有利の法域であることを確認し、未払貸付金を有する債権者がどのようにすれば最もその権利を保護することができるか、また、債務リストラクチャリングを検討する借入人がどのように会社清算を避けることができるかについて、有用な指針を提供するものです。

背景

Rich Region（「本会社」）は、ICBCマカオ（「本銀行」）との間で、香港九龍半島の何文田における高級不動産開発プロジェクトの資金調達のために貸付契約を締結し、合計HK$3,314,751,351.19の債務を負っていました。当該貸付金の担保として、借入人およびその他の関連グループ会社の複数の株式が供されていました。会社は、財政不振に直面し、これにより2020年に債務不履行を引き起こし、貸付金のリストラクチャリングについて本銀行と交渉を重ねていました。

最終的に、本銀行は本会社に対して強制履行を請求し、支払期限が到来した貸付金の支払いを求めました。本会社は強制履行を果たさず、代わりにBVI商業裁判所に対して強制履行の棄却を申し立て、（1）銀行による貸付金のリストラクチャリングにかかるいくつかの表明事項に基づいて債務が履行期限を迎えていないこと、および/または（2）本銀行は被担保債権者であり、貸付金を超える担保を保有していることを主張しました。

決定

Small Davis裁判官は、本会社の強制履行の棄却申立てを却下し、清算人の選任および本会社による棄却申立に対する防御的訴訟活動のために本銀行が支払った費用の補償を求めました。本会社による署名済みの証書（ディード）形式で作成された追加担保文書ドラフトの交付を含む、潜在的なリストラクチャリングにかかる長期のやり取りがあったにもかかわらず、当該書面が証書として締結されなかったことから、当該債務は有効かつ法的に拘束力のある方法でリストラクチャリングされなかったと判断しました。また、その後のドラフトや発言（WhatsAppメッセージを含む）も、債務をリストラクチャリングするものとして十分ではなく、本銀行による権利行使を禁じるものにもならないと判断しました。これは本会社がそれらの表現事項に基づく信頼が深刻な程度に及んでいないことが理由です。むしろ、裁判官は、本銀行が提案したリストラクチャリング案を本会社が受け入れなかった交渉経緯があることにも言及しました。

この事案で特に興味深いのは、強制履行棄却理由となる被担保債権の構成内容について裁判所が見解を示した点です。2003年BVI破産法（「本法」）第157条は、主張にかかる債務につき債権者が担保物権を保有し、当該担保物権の価値が請求額（US$2,000の所定最低額を差し引いた後の額）以上である場合には、裁判所が強制履行請求を棄却することができると定めています。本会社は、第157条における担保物権が債務者提供担保に限られず、第三者提供担保も含むと主張しました。本銀行は、本法第9条で定義された「被担保債権者」と一致する方法で第157条を解釈しなければならないと主張しました。当該定義の範囲は狭く、被担保債権者に該当するためには債務者が提供した担保物権を保有している必要があります。

Small Davis裁判官は、この論点では本会社の主張を認めました。第9条における被担保債権者の定義は、会社の清算時の財産分配における被担保債権者と一般債権者の優先順位を決定するために存在します。第157条は、被担保債権者と一般債権者の双方が提出できる強制履行請求の棄却に関係するものです。これには「被担保債権者」という用語が使用されておりません。この判決において、裁判官は、「債権者がその債務に関して執行可能な担保物権を保有し、清算という悲劇的な状況に債務者を陥れることなしに当該担保を実行して債権を確保できるにもかかわらず、さらに会社を清算することもできるという状況がもたらされるのは望ましくない」と述べました。

他方で、本銀行が保有していた担保評価について、本会社は、「実質的な理由がない」費用によってかさ増しされていることから、本銀行の計算に費用控除を適用すべきと激しく争いました。本銀行の評価には明らかな脆弱性があったものの、本会社が考える真の評価を裏付ける明確な証拠が提出されなかったこと、および本銀行による担保実行が膨大な時間なしにはなしえないという現実的な問題があったことが、裁判官による強制履行請求の棄却を認めない判断に繋がりました。

本会社は強制履行請求の棄却については究極的には失敗しましたが、判決は本法第157条の各要素の考慮にあたって重要な意味を有しています。

債権者・借入人への教訓

Small Davis裁判官によるRich Regionにおける決定は、未払債権に基づくBVI会社の清算が有効な法的戦略かどうかを検討する借入人および債権者の双方にとって、以下のものを含む重要な教訓を含んでいます。

1.  財政不振に陥っている借入人が清算を避けるためにその債務のリストラクチャリングを実施しようとする場合、そのリストラクチャリングが法的に拘束力のある方法で文書化されていることを確保する必要があります。Rich Regionでは貸付金のリストラクチャリングをしたであろう証書ドラフトが借入人によって適切に締結されなかったことが借入人の支払義務を変更または延期する有効な合意が存在しないことに繋がりました。

2. 債務にかかる担保を保有している債権者は、その担保価値が債務額以上であるかを検討しなければなりません。肯定される場合、債権者によって提出された強制履行請求は棄却申立ての対象となります。反対に、債権者が債務額以上の担保を保有しているという理由で強制履行請求を棄却しようとする借入人は、担保価値の明確な証拠を提供する責任があります。本銀行の保守的すぎる担保評価の欠陥を示したものの、本会社が担保の真の価値を裏付ける明確な証拠を提供できなかったことは、この根拠に基づいて強制履行請求を棄却しようとする上では致命的なものでした。

3.  債務額を超える価値の担保を保有する被担保債権者でありながら、BVI会社に対して清算人の選任を求めたい場合は、債務者が実際に支払不能となっている証拠があるか、または公正かつ衡平を根拠とする清算の理由が存在するかどうかを検討する必要があります。

4.  BVI法は、他のコモンロー法域の類似法律を模しています。しかしながら、実際の法令の内容およびそれを取り巻く現地の判例法を慎重に検討しなければ間違いが起こり得ます。債権者および債務者の両方において、等しく、BVIにおける権利保護および権利実現の最大化を図るためにはオフショアの法律家の助言を求めるべきです。Ogier香港の紛争解決チームは、BVIにおける清算および当該法域における担保実行に関して広範な経験を有しています。

[1] BVIHC (COM) 134/2022、Small Davis裁判官、2023年7月31日。

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