公的管理：ケイマン諸島大法院が任意清算を公的清算に転換する審査基準を明示

Re Touradji Private Equity Master Fund Ltd において、ケイマン諸島大法廷は、任意清算中の3つのファンドについて、被害を受けた一部の投資家と共同任意清算人による申請に基づき、投資マネージャーの異議を棄却して、監督命令を下しました。

この決定は、裁判所が当該申請について適用する審査基準の指針を示し、会社法（Companies Act）第131条(b)に基づいて任意清算を公的清算に転換することが効果的、経済的、迅速的であると裁判所が考える各種の事例を示しています。

監督命令に適用される審査基準

監督命令とは、裁判所が、任意清算中の会社について、破産管理人としての資格を保有している複数名の者を公的清算人として選任することを含む命令をいいます[1]。この命令は、会社が裁判所によって清算されたかのような効果を有します[2]。すなわち、監督命令が下されると、清算人の権限が拡大され、任意清算中に行使できていた会社株主の残存権限は排斥されます[3]。

会社法においては、裁判所が任意清算について監督命令を下す条件がいくつが規定されており、これには以下の各場合が含まれます。

1.    取締役が28日以内に支払能力を有することの声明書を提供しなかった場合（第124条）[4]
2.    会社が破産し、または破産する可能性がある場合（第131(a)）[5]
3.    裁判所による監督が「出資者および債権者の利益に資する、より効果的、経済的、または迅速的な会社清算をもたらす」場合（第131(b)）[6]

会社法第131条(b)の下で任意清算を公的清算に転換する際に適用される審査基準は、ケイマン諸島控訴裁判所が2020年にRe Asia Private Credit Fundにおいて示されています。その内容につき、Kawaley裁判官は、Touradjiにおいて次のように要約しています[8]。

·         証拠の評価・分析を踏まえて、複数の法令上の根拠があること基づき、第131条(b)の下で救済措置を講じることが適切であることを申立人が立証したと裁判所が認める必要があること

·         依拠している法的根拠が審尋日時点で確立されたものであること

·         公的清算人の権限の全部または一部が直ちに行使されなければならないと裁判所が認める必要まではないものの、請求されている監督手続によって、「出資者および債権者の利益に資するような、より効果的、経済的、または迅速的な会社清算をもたらす」ことが「潜在的に確実である」ことが立証できなければならないこと[9]

·         証拠を評価する際、裁判所は、任意清算人を解任する管理株主の権限排斥といった、公的清算における一般的な法的枠組がもたらす実際上の影響を考慮できること

Touradji案件の事実関係

Touradjiは、期間満了に伴って2018年8月以来任意清算中だった3つのファンドにかかる案件です。ファンドの投資マネージャーは、当初、ファンドの任意清算人に選任されました[10]。任意清算の進行について特定の投資家から不満が寄せられたことから、投資マネージャーは、辞任および独立した共同任意清算人（「本JVLs」）の選任に同意しました。

しかし、投資家および本JVLsは、主に投資マネージャーの協力不足（本JVLｓに対する情報および資料の不提供）を理由に、本JVLsを選任したとしても清算手続の進行がほとんど改善されない旨主張しました。手続進行の遅延が継続したことから、投資家および本JVLsは、会社法第131条(b)に基づいて、監督命令に関する請願に加えて、本JVLsを公式清算人に選任することを内容とする請願をそれぞれ提出しました。

請願者の申立て

請願の審理において、ファンドが清算されるべきという点には共通の認識が形成されていました。しかし、投資マネージャーの見解は、裁判所が監督命令を出すべきではなく、ファンドの任意清算を維持すべきであるというものでした。

Kawaley裁判官は、裁量に基づく監督命令における考慮要素として以下のものを挙げました：

·         投資マネージャーの証言は、「ファンドの事務を可能な限り多くコントロールしたいという願望」[11]および「JVLsが（投資マネージャーによる）現状の協力と支援をもって満足すべきであり、自律的に、または独立して行動すべきではない」[12]という信条を映し出したものであること

·         ファンドは4年間もの間任意清算を実施しており、信頼できる直近の財務記録が存在せず、最新の社員記録も用意されていないこと[13]。本JVLsにとってファンドが現在債務超過状態であるかどうかもわからないことが証明されたこと[14]

·         本JVLsの選任直前に行われた多額の金銭支払い等のファンドの財務状況を独立して調査する必要があり、このことは「私が行ったことを調査する必要はないと思います」との投資マネージャーの発言からも証されること[15]。この状況において、投資マネージャーによる本JVLs解任権の保持は、清算実施のうえではかえって「助けになるものではなく障害になる」こと[16]

·         公的清算人としての権限が本JVLsに付与されれば、清算がより経済的で効果的になるという専門的な意見が認められること[17]。この見解は、自身の意見を公式に表明したファンドの全ステークホルダーによって支持されていること[18]。投資マネージャーが請願提出者に対して審尋に至るまで協力したものの、このことは監督命令が出されるべきだという本JVLsの考えを減殺させなかったこと[19]。

·         本JVLsが公的清算人たる地位を認められなければ、海外の第三者からの情報収集能力が任意に基づくものであるか、または投資マネージャーによる協力に完全に依存すること[20]

Kawaley裁判官は、最終的に、監督命令を出すことに同意し、次のように述べました：

「任意清算は、通常、手順が単純または明確に定義され、問題点が少ない場合にスムーズに進行するものです。本件のようにファンドの任意清算がマネージャーによって管理されており、進路が定まらない場合には、専門的な清算人による操舵のみが、船を真っすぐ推進させるための唯一の手段であり、マネージャーによるコントロールを必要最低限の範囲にとどめるべきである。その性格や、商業的な複雑さも影響するものの、多くのマネージャーは、自分たちの「船」と考えているもののコントロールを譲ることができない。」[21]

結論

ケイマン諸島における任意清算の手続は、限定的な報告要求に加えて、裁判所による監督が不要なシンプルなものです。さらに、株主には普通決議によって任意清算人を解任する権力が留保されています。これはほとんどの状況で利害関係者にメリットをもたらすものであり、通常は、清算人、株主、債権者間の信用と信頼に依拠するものです。

本件は、その信用と信頼度が崩壊した事例であり、また、投資家、破産管理人、債権者にとって全ての利害関係者の利益のために清算手続を裁判所の監督下に置くことを裁判所が賛同しうる状況に関する好ましいガイダンスを提供するものです。

[1]裁判所が清算命令を下した場合と同じように第105条が適用されます（会社法第132条）。

[2] ただし、清算開始日は任意清算が開始された時とみなされ、任意清算人による従前の行動は有効かつ拘束力があるものとみなされます（会社法第133条）。

[3] これには会社法第121条に基づき、株主の過半数によるの普通決議による任意清算人の解任権が含まれます。

[4] 清算人による申立てが前提として必要であるものの、当該宣言が提出されない場合には当該申立てが義務的なものとされています（「清算人は…申し立てなければならない」）。

[5] 清算人または債権者もしくは出資者による申立てに基づきます。

[6] 清算人または債権者もしくは出資者による申立てに基づきます。

[7] [2020] (1) CILR 134。

[8] Touradji [6]。

[9] 公的清算人の選任が清算手続費用を増額させる場合、裁判所は監督命令を発出しない場合があります：Re Consistent Return Limited [2012] (1) CILR 445参照。

[10] 当初他の任意清算人がマネージャーと共同して選任されたものの、2022年初めに当該清算人は辞任しています。

[11] Touradji [11]。

[12] Touradji [17(b)]。

[13] Touradji [18(a)]。

[14] Touradji [9], [18(c)]。

[15] Touradji [13], [18(b)], [19(a)]。

[16] Touradji [19(b)]。

[17] Touradji [18(d)]。

[18] Touradji [18(g)]。

[19] Touradji [18(e)]。

[20] Touradji [18(f)]。

[21] Touradji [17]。

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